ITパスポートのシラバスには「IT サービスマネジメントでは,提供するサービスの品質と範囲を明文化し,サービスの委託者との合意に基づいて運用管理するために,サービスレベル合意書(SLA:ServiceLevel Agreement)を結ぶことを理解する。」とあります。

SLAとは
ITサービスマネジメントを行う中で,SLAは重要なキーワードです。SLA(Service Level Agreement)を直訳すると,“サービス基準の合意”となります。サービス基準というのは,前述したように,「オンライン業務の月間稼働率」,「障害発生時の復旧時間」などで,この基準に合意することをいいます。合意する主体はサービス提供者と顧客(ユーザ)です。

過去問(H20秋NW午前)を見てみましょう。
問18 SLAを説明したものはどれか。
ア ITサービスマネジメントのベストプラクティスを集めたフレームワーク
イ 開発から保守までのソフトウェアライフサイクルプロセス
ウ サービスの品質に関する利用者と提供者間の合意
エ 品質マネジメントシステムに関する国際規格
アは、ITIL(IT Infrastructure Library)についての説明です。
イは、SLCP(Software Life Cycle Process)についての説明です。
ウは正解です。SLA(Service Level Agreement)は利用者と提供者間でのサービスの品質に関する合意です。
エは、ISO 9000シリーズについての説明です。

【解答】ウ

過去問(H26秋AP午前)を見てみましょう。
問55 SLAに記載する内容として,適切なものはどれか。
ア サービス及びサービス目標を特定した,サービス提供者と顧客との間の合意事項
イ サービス提供者が提供する全てのサービスの特徴,構成要素,料金
ウ サービスデスクなどの内部グループとサービス提供者との間の合意事項
エ 利用者から出されたITサービスに対する業務要件
正解は、アです。

なぜSLAが必要なのか
① 顧客(ユーザ)のメリット
顧客(ユーザ)のメリットは,高い水準のITサービスを安定的に受けられることです。インターネット回線のベストエフォート型を例にして説明します。ベストエフォート型のインターネット回線は,回線が空いていれば高速な通信が可能であり,価格も安くなります。しかし,利用者が多くて混雑していると速度は極端に遅くなる場合があり,故障時の復旧時間もSLAとして定められていません。基幹業務などの安定した品質が必要な業務においては,通信品質がバラバラでは業務に支障をきたします。よって,基幹業務においては,ベストエフォート型ではなく,コストが高くてもSLAが定められたサービスを契約することが多いでしょう。高い水準(このケースでは業務に影響が出ない水準)のITサービスを安定的に受けたいからです。

② サービス提供者側のメリット
サービス提供者側のメリットは,サービス基準を定めることで,責任範囲が明確になることです。もしSLAがなければ,顧客(ユーザ)から,「なんとなく応答時間が遅いから改善して」という要求に対応する必要も出てくるでしょう。どこまで改善すればよいのかの基準がなければ,サービス提供者側の負担は大きなものになります。責任範囲が明確になることで,際限なく費用と稼働をかけることを減らすことができます。

SLAの具体例
① 平成20年度 SM 午後Ⅰ 問1より抜粋

項番SLA項目内容サービスレベル値
1可用性オンライン業務の月間稼働率99%以上
2オンラインレスポンスデータ入力の応答時間遵守率5秒以内の遵守率90%以上
3サービス開始時刻サービス開始時刻の遵守率遅延時間30分以内の遵守率100%
4運用変更通知利用部門への通知時限運用変更の60分前

SaaS向けSLAガイドライン(平成20年1月21日 経済産業省)より抜粋
http://www.meti.go.jp/press/20080121004/03_guide_line_set.pdf

サービスレベル項目例規定内容設定例
平均復旧時間障害発生から修理完了までの平均時間1時間以内(基幹業務)
12時間以内(上記以外)
障害通知時間異常検出後に指定された連絡先に通知するまでの時間15分以内(基幹業務)
2時間以内(上記以外)
バッチ処理時間バッチ処理(一括処理)の応答時間4時間以内

論文を書くにあたって
SLAに関しては、「合意している」という点が重要である。
顧客はともかく、サービス提供側が合意しているとなれば、SLAを遵守できる実現可能性が明確になっていなければならない。

午前問題で出題されても、この点を間違える人はいないであろう。しかし、午後Ⅱの論文では、間違える可能性があるので注意しておく。

例えば、以下のような記述はNGである。
・顧客にNOと言えず、しぶしぶ合意した。
・顧客の要望が「24時間365日の可用性」であったため、合意した。実際には、二重化されておらず、実現はほぼ不可能。だが、顧客もそれを分かっているので、それほど厳しく言われることもない。